裁判記録でたどる生成AI法務の現在地:Getty事件をキーに

Getty Images社が、Stability AI社を相手取り、英国及び米国において著作権侵害で訴えていた事件で、英国で判決が出たというニュースがあったので調べてみた。

下記の記事で紹介した事件も、学習用データに関連する訴訟であったが、本件は、画像生成モデルの学習用データ(画像、関連テキスト)に関連するものである。

(注)本記事の内容は正確性を保証するものではない。

目次

事件の概要

Getty Images社が、Stability AI社を相手取り、著作権侵害で訴えていた事件について教えてください

GPT 5 Thinkingの回答

以下は、Getty Images(ゲッティ)対 Stability AI の著作権訴訟の概要です(最新:2025年11月時点)。

何が起きたか(経緯)

  • 提訴(英・米:2023年にGettyが、Stability AIが画像生成モデル「Stable Diffusion」の学習のためにゲッティの画像を無断でスクレイピングしたなどとして、英国と米国で提訴。
    英訴訟では著作権侵害・商標権侵害・パッシングオフ等、米訴訟では著作権・商標関連の主張が中心でした。 (Copyright Alliance)

    (追記) 「パッシングオフ」は、登録商標がなくても保護できる、英国コモンロー上の不正競争の一類型とのこと。
  • 英国での審理:2025年6月にロンドン高等法院(イングランド・ウェールズ高等法院)で主要論点の審理が行われ、2025年11月4日に判決が出ました。 (Courts and Tribunals Judiciary)
  • 米国での移送・再提起:米デラウェアの事件は2025年8月に原告側が任意取り下げカリフォルニア北部地区2025年8月14日付で再提起され、現在も係属中です。 (ipde.com)

英国判決のポイント(2025年11月4日)

  • 著作権(学習段階の“入力”侵害
    Gettyは「英国での複製(コピー)」を前提に著作権侵害を主張していましたが、学習が英国外(主に米国のサーバー)で行われたとして、審理の終盤でこの中心主張を取り下げ。結果として、学習そのものの著作権侵害についての判断は示されず (AP News)
  • 二次的著作権侵害(モデル内部に作品を“保持・再生産”しているか
    法院は、Stable Diffusion が著作物そのものを保存・再生産しているとまでは認められないとして、二次的侵害を否定(Reuters)
  • 商標(ゲッティ透かし “Getty Images / iStock”
    生成画像に透かし風の表示が出る例に関して、限定的・歴史的な(範囲の狭い)商標侵害を一部認定。
    ただし重大な違反や広範な差止・損害認定には至らず
    (The IPKat)

総合すると、英国ではStability AIが大筋で勝訴(著作権の主要争点は未判断/商標はごく限定的に侵害認定)という評価です。 (Reuters)

「学習が英国外(主に米国のサーバー)で行われたとして、審理の終盤でこの中心主張を取り下げ」とのことですが、これについての情報はありますか

GPT 5 Thinkingの回答

はい、一次(入力)侵害に関する「学習は英国で行われたという主張を審理の終盤で原告側(Getty)が取り下げたことは、英国高等法院の判決本文に明記されています。

  • 判決は、「Training and Development Claim(学習・開発段階の複製侵害)」が取り下げられたため、Gettyは“この学習プロセスがUKで行われた”とはもはや主張していない、と記載しています。
    さらに、Stability側は当初から学習は英国外のAWSクラスター上で行われたと述べていた、と整理されています。(Courts and Tribunals Judiciary)
  • 実務解説でも、「入力(学習)クレームは、英国域内での複製行為を示す証拠が不足したため、審理終結時に取り下げられた」と要約されています。(Farrer & Co.)

要するに、CDPA(英国著作権法)の「主たる侵害」は領域性が強く“UK内でのコピー”の立証が鍵ですが、Gettyはそこを詰め切れず学習段階の主張を撤回
その結果、裁判所は主に二次侵害や商標(透かし)の論点に進み、著作権「学習=侵害」については判断未了の形で終わっています。(Courts and Tribunals Judiciary)

英訴訟で、Getty Images社は、著作権侵害・商標権侵害・パッシングオフ等など、多数の主張を行なっているので、各主張ごとに整理しないと、何が判断されて、何が判断されなかったのかが、短いニュース記事では分かりにくいと感じた。

著作権についても、「学習段階の“入力”侵害」と、「モデル内部に作品を“保持・再生産”しているか」(二次的著作権侵害)の2つのポイントがあり、「学習段階の“入力”侵害」についての判断が示されなかったのは、Getty Images社が、学習が英国外で行われたとして主張を取り下げたからであり、このような点は調べてみないとわからない点である。
よって、このポイントの判断は、米国での訴訟に持ち越しということらしい。

「モデル内部に作品を“保持・再生産”しているか」(二次的著作権侵害)について、著作物(画像)をモデル内部に保持・再生産しているとまでは認められないと判断された点は本訴訟のポイントの1つのようだ。

米国訴訟の現状(2025年11月)

  • 事件はカリフォルニア北部地区・事件番号 3:25-cv-06891
    2025年8月の提訴後、手続が進行中です(Waiver of Service 受領、回答期限設定など)。本案判断はまだ出ていません。 (Justia Dockets & Filings)

なぜ重要か(実務的含意)

  • 学習の場所と法域:英国事件では、学習場所(UK外)が致命的に作用し、著作権の中心論点が取り下げられました。
    AI学習の地理的所在や管轄の選択が、今後も大きな争点になります。 (AP News)
  • モデル内部表現の法的評価:英国判決は、モデルが“著作物の複製”を内部に保持しているとは言えないという判断を示し、生成AIモデルそのものの性質に関する実務上の示唆を与えました。
    (ただし英国法における判断で、他法域での評価は未確定)。 (Reuters)
  • 商標・出所混同の管理水印(ウォーターマーク)問題は、生成系のブランド毀損・出所表示の観点でリスク。
    学習データの出所・プロンプト設計・出力フィルタの運用が重要です。 (The IPKat)
  • 米国での本格判断待ちフェアユース等、米国独自論点での本格判断は今後。
    米国事件の行方が、グローバルな実務に与える影響は小さくありません。 (Justia Dockets & Filings)

商標(ゲッティ透かし “Getty Images / iStock”)について下記の回答がありましたが、理由を調べてください

生成画像に透かし風の表示が出る例に関して、限定的・歴史的な(範囲の狭い)商標侵害を一部認定。
ただし重大な違反や広範な差止・損害認定には至らず。

GPT 5 Thinkingの回答

理由は大きくいうと「いつ・どの版で・どんな使われ方をしたか」が極端に限定できたからです。
要点だけ箇条書きでまとめます。

  • 該当は“初期版(v1系)”の一部出力に限られた
    法院は、iStockのウォーターマークについて“同一標章の同一役務への使用(s.10(1))”に当たる場面を初期の一部モデル(v1.x)にだけ認めました。
    後発版(v1.6/SDXLなど)についてはリアルワールドでそのような出力が生じた証拠がないとして侵害を否定。
    したがって「歴史的(過去のごく一部の版に限る)」かつ「限定的」評価となりました。 (Taylor Wessing)
  • “GETTY IMAGES”自体の侵害は成立せず、iStockのみ一部認定
    ダブルアイデンティティ(s.10(1))はiStockについて初期版の一部でのみ成立。
    GETTY IMAGESの方は不成立と整理されています。
    侵害範囲が“商標群の一部”に縮退したことも、救済が狭くなった理由です。 (The IPKat)
  • “混同のおそれ”や“著名商標の希釈化(s.10(3))”は広くは認められず
    s.10(2)・s.10(3)については、出所混同や希釈化を裏付ける実証が弱い/見られないとして幅広い違反は否定。
    パッシングオフも広汎には認められませんでした。
    結果、差止・損害も限定的にならざるを得ません。 (デントンズ)
  • モデル更新後の“現在進行のリスク”が乏しいと評価
    侵害が認められたのは“過去の仕様・挙動”で、現行版では同様の出力が確認できないとの事実認定が重なりました。
    継続的・広範な侵害を前提にした強い差止や大きな損害算定が難しくなっています。 (www.hoganlovells.com)
  • 事件全体の重心が著作権から外れたことも影響
    本件ではGetty側が審理中に主要な著作権主張を取り下げ二次侵害も不成立に。
    裁判の“本丸”が後退したため、商標面の部分的認定だけでは「重大な違反」や「広範な救済」に結びつきにくかった、という文脈もあります。 (Reuters)
  • ひとことで
    初期版v1系の一部で、iStock透かしが再現された“事実”だけは認められたが、後発版では実証なしGETTY IMAGES自体は不成立混同・希釈化も広くは立証されず。ゆえに“限定的・歴史的”な一部侵害にとどまり、強い差止や大きな損害賠償には至らなかった、という判断構造です。 (Taylor Wessing)

侵害の対象となっている商標権

この事件の侵害の対象となっている商標権(英・米)について教えてください

GPT 5 Thinkingの回答

以下は、Getty Images v. Stability AIにおける「侵害の対象となっている商標権」(英・米)の要点です。

英国(イングランド・ウェールズ)

  • 対象商標(“Marks”)
    判決文は、Gettyが「Getty Images」および「iStock」の名称(ワード)とロゴ(図形)に関する各商標を保有していることを前提にしています。
    主要論点の解説でも、GETTY IMAGES/ISTOCKのワードマークとロゴマーク(英国登録)が比較対象であったと整理されています。(Taylor Wessing)
  • 侵害の主張の基礎
    TMA 1994(商標法)s.10(1)/(2)/(3) に基づき、Stable Diffusionの出力にGettyやiStockのウォーターマーク様表示が現れる事例を商標の同一/類似使用として主張。
  • 裁判所の判断(商標部分)
    古い版など限定的な範囲で、iStock 等のウォーターマークが生成出力に再現された点についてs.10(1)/(2)の侵害を一部認定。
    s.10(3)(著名商標の不当な利益・希釈化)は不成立。総じて狭い範囲の一部認容という評価です。(Taylor Wessing)

    ※ 判決は商標論点を詳細に検討しつつ、どの程度の“ウォーターマークらしさ”で侵害が成立し得るかも整理しました。(Courts and Tribunals Judiciary)

米国(カリフォルニア北部地区・係属中)

  • 対象商標(“Getty Images Marks”)の定義
    訴状は、Getty Imagesの登録商標・ロゴ・ウォーターマーク等を総称して“Getty Images Marks”と定義し、出力に現れる改変ウォーターマーク等の使用を問題視。(Copyright Alliance)
  • 主張されている請求根拠(商標関連)
    Lanham Act §32(登録商標侵害)§43(a)(虚偽表示・不正競争)§43(c)(希釈化)等に基づく請求が明示されています。さらに州法(デラウェアUDTPA/州商標希釈化)も併合。(Copyright Alliance)
  • 米国での事実主張の核
    Stable Diffusion/DreamStudioの利用で、Gettyのウォーターマーク風表示低品質・不快な画像に付されるケースがあり、出所混同や著名商標の希釈化を招く、という趣旨。(Copyright Alliance)

ひと言まとめ

  • 英国:対象はGETTY IMAGES/ISTOCK(ワード&ロゴ)ウォーターマーク再現に関して限定的に侵害認定(s.10(1)/(2))。希釈化(s.10(3))は不成立。
  • 米国:対象は訴状上の“Getty Images Marks”(登録商標・ロゴ・ウォーターマーク等の総称)。
    Lanham Act §32/§43(a)/(c)などで侵害・虚偽表示・希釈化を主張し、審理継続中。(Copyright Alliance)

商標イメージ(米国、抜粋)

Reg. No. 2,656,652
Reg. No. 4,240,187

追記)
英国の商標について、判決(High Court, 2025年11月)は、商標侵害の判断対象が 「GETTY IMAGES」および「ISTOCK」 の登録商標であることを前提に理由付けをしているとのことだが、「具体の UK 登録番号」は本文に列挙されていないため、表示省略。

英国訴訟の論点

論点別の詳細な一覧を作成してください

GPT 5 Thinkingの回答

以下は、Getty Images 対 Stability AI の論点別・詳細一覧です。
(判決:英国=2025年11月4日、高等法院/米国=係属中)

主要ポイントごとに信頼できる一次・準一次情報に基づいて整理しています。

英国(イングランド・ウェールズ高等法院)— 2025年11月4日判決

1) 学習段階における「一次(直接)著作権侵害

  • 争点:Stable Diffusion の学習行為(スクレイピング→学習のための複製)がUK国内で行われたか、行われたなら著作権侵害か。
  • 結果:地理的な立証不足(学習の場所が英国である根拠が弱い)を背景に、原告 Getty は公判中に主要な一次侵害・データベース権主張を取り下げこのため、コアとなる「学習=侵害」については本判決での法的判断は示されず(scl.org)

2) 二次的著作権侵害(モデルそのものが「複製物」か

  • 争点:学習後のモデル(重み・パラメータ)が、Getty の著作物の「複製」に当たるか。
  • 判断:モデル重みは著作物を貯蔵・再生産していないため、二次的侵害は不成立
    他方で、CDPA(英著作権法)の「article(物)」概念は無体物(ソフトウェア)も含み得ると解したが、それでもStable Diffusion は“侵害コピー”ではないとされた。(DLA Piper)

3) 生成出力に関する著作権侵害

  • 争点:Stable Diffusion が出力する画像が、Getty の著作物の実質的部分の再製に当たるか。
  • 判断:一次侵害を取り下げた経緯もあり、出力の著作権侵害で決定的な違法性は認められず(中心は商標問題へ)。(Reuters)

4) データベース権(sui generis database right)

  • 争点:Getty のデータベースから実質的部分の抽出・再利用があったか。
  • 結果:UK との接点(nexus)不足等を理由に、原告が審理中に主張を取り下げ実体判断はなし(DLA Piper)

5) 商標侵害(「GETTY IMAGES」「iStock」等のウォーターマーク)

  • 争点:生成画像にGetty の透かし(ウォーターマーク)に類似する表示が出る事例が商標法上の侵害(TMA 1994 の s.10(1)/(2)/(3))やパッシングオフに当たるか。
  • 判断:限定的かつ過去の特定事例に限り、s.10(1)/(2) の侵害を一部認定
    一方、s.10(3)(著名商標の希釈化等)は不成立
    パッシングオフは実質的に退けられる/判断不要と扱われる形で、全体としては狭い範囲での原告の一部勝訴にとどまる。(cms-lawnow.com)

(2025年11月11日追記)
質問:透かし表示の商標侵害の責任はユーザーにあると、Stability AI社が主張したというのは本当ですか

GPT 5 Thinkingの回答
はい。その主張(「透かし表示はユーザーの振る舞いに起因する」→責任はユーザー側にある)は
Stability AI が英国訴訟で展開しましたが、裁判所は退けました

・裁判所は、水印が出るかどうかをユーザーが“求めていない/防げない”状況が少なくとも一部の版で存在した事実を重視し、責任をユーザーに転嫁するStabilityの主張を採用しないと明言しています。(The IPKat)

・その理由づけとして、Stabilityは(i)学習を行い、(ii)水印付き画像を除去するようフィルタできた立場であり、(iii)モデルを提供しユーザーへのコミュニケーションを行っていた——つまり“標章の使用”に積極関与していた、と裁判所は位置付けました。(Courts and Tribunals Judiciary)

結論として、「ユーザーがやったからStabilityは使っていない」論法は通らず、裁判所は限定的・歴史的(主に初期v1系)な範囲iStock等の商標侵害を認定しました(幅広い差止・損害は否定)。(taylorwessing.com)

6) 手続・射程に関する含意

  • 判決は「学習=侵害」命題の本格判断を避けたため、根本論点は未解決
  • モデル重み=複製物ではないとの判断は、モデル内部表現の法的位置づけに関する先例的示唆を与える。
  • 商標については初期版/特定アクセス形態(v1系・DreamStudio等)での限定的侵害が指摘され、現行版一般に広く差止め、という結論ではない。(Reuters)

参照:判決本文(PDF・Judiciary)と大手メディア/大手法律事務所の解説
(Courts and Tribunals Judiciary)

米国(カリフォルニア北部地区)— 係属中

1) 手続の移動と現状

  • 2023年2月:デラウェア地裁に提訴。
  • 2025年8月14日デラウェア事件を任意取下げの上、カリフォルニア北部地区(Case No. 3:25-cv-06891)に再提起
    本案判断は未だ出ていない。(courtlistener.com)

2) 主張されている法的請求(例)

  • 著作権侵害(大量の画像・キャプション・メタデータの無断利用)。
  • DMCA §1202(著作権管理情報:CMI の除去・改変・虚偽表示)。
  • 商標侵害・希釈化、虚偽表示(Lanham Act)不正競争 等。
    ※2025年再提訴の訴状には、CMI除去/虚偽CMIの具体的主張が明記。(Chat GPT Is Eating the World)

(追記)
「CMI」とは「Copyright Management Information(著作権管理情報)」の略で、作品に付随して伝達される“権利情報”一式とのこと。

3) 英国判決との関係

  • 米国はフェアユースなど独自論点が絡む可能性。英国判決は直接の先例拘束力はなし
    米訴訟の趨勢が、学習段階の適法性CMI/商標の扱いに実務的影響を与える見込み。(Bloomberg Law)

争点マップ(要約)

  • 著作権(学習):UKでは原告が取下げ→未判断。米国で継続審理。(scl.org)
  • 著作権(モデル内部=重み複製物ではない(UK)。(DLA Piper)
  • 著作権(出力UKでは決定打なし(Reuters)
  • データベース権:UKは主張取下げ未判断。(scl.org)
  • 商標(ウォーターマーク等UKで限定的に侵害認定(s.10(1)/(2))希釈化(s.10(3))は不成立パッシングオフは退けor判断不要。(cms-lawnow.com)
  • 手続の射程学習の場所(管轄)が結果に大きく影響—“場所”の立証が今後も鍵。(Reuters)

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